「玄関」
1.建物の正面の入口。
2.禅宗で、玄妙な道に入る関門。転じて、禅寺の方丈への入り口。
禅語で「玄」は奥深い悟りの境地や仏教の奥深い教えを意味し、「関」は入り口を表す言葉。この二語を合わせた「玄関」は玄妙な道に入る関門、奥深い仏道への入り口を指す仏教用語だそうです。
室町時代になると武家屋敷の出入口に玄関様式が取り入れられましたが、この様式は江戸時代までは武士と一部の名主にしか許されていなかったほど格式の高いもので、客人の出迎えや家主(主人)の出入りのために使われ、家人(家主以外の家族)は玄関とは別に設けられた内玄関から出入りするなど特別な空間でした。
しかし現在の住宅建築における玄関は、建物の出入口としての機能的な役割(靴を脱ぎ履きする、身支度をする)に重点を置き、それ以上の意味を感じる事はあまりありません。玄関に面積やコストを割くのであれば玄関を多少小さくしてその分リビングを広くしたいと考えるのは当たり前の事かもしれませんし、今の時代に則した住宅事情やコストパフォーマンスを考えると当然の事かもしれません。
一方で、玄関からお庭が見えたり足元を照らす間接照明があったり、シューズインクロゼットがある事で玄関がすっきり見えたり、玄関で簡単な来客対応ができるくらいの広さがあったりと、豊かさやゆとりを持たせながら住まう方やゲストを優雅に迎え入れる演出が施された玄関も増えています。
玄関はそこに住まう家族を日々見送りお出迎えし、時にはゲストを迎え入れてくれる特別で大切な空間です。当たり前の日常を心豊かなものへと昇華してくれる玄関はリビングと同じくらい大切な空間で、その家に住む家族の想いやライフスタイル、そして格式を体現する特別な空間であるべきだと考えます。
今回は玄関の概念を飛び越えて、玄関自体が家族の想いやライフスタイルを体現している事例をご紹介いたします。
領域を分ける/家族を繋げる
和歌山の山間に建つ平屋住宅で、玄関ドアを開けると住宅内部を端から端まで縦断する通り土間が配置されています。通り土間を挟んで右側がLDKスペースと夫婦の寝室、左側が子供室3室と子供たち用の収納部屋になっており、通り土間で大人スペースと子供スペースとを緩やかに分ける設計です。土間に面して設けている縁側によってどこからでも室内へアクセスが可能で、この通り土間と縁側が家族や親子、ご近所さんとのコミュニケーションスペースになります。隣家の梅の木を借景している土間の突き当りには、睡蓮鉢を置いてメダカを飼う予定です。
LDKは大きな障子で仕切る事も可能です。建築計画当時はご夫婦二人住まいだったのですが、これから家族が増えていったときの事をイメージしながら創り上げた玄関です。お子様エリアをより明るく照らす照明計画や梅の木の借景、将来的な睡蓮鉢設置計画も含めて家族みんなでこの先どのようにこの家で過ごしたいか、お子様がこの家でどのように成長してほしいかなど、この玄関には施主様の優しい想いが込められています。
好きなものに囲まれて珈琲を飲む
アウトドアが趣味のご家族のための6畳ほどの大きな玄関土間。キャンプから帰ってきたらまずは土間に道具を置き、洗った道具も土間で乾かして、乾いた道具は外の物置に収納します。お気に入りのキャンプ道具やヴィンテージの道具は土間に飾り、お気に入りの靴や本も玄関に置いています。見せる収納は見せ方がとても難しいのですが、雑多になる一歩手前でとどめて好きなものであふれている心地良い玄関になっています。
キャンプ道具や靴をリビングに飾るのは抵抗があるけれど玄関であれば気にならないのでは、という発想から玄関に好きなものを集める空間と住まい方にたどり着きました。キャンプの準備や後片付け、道具のメンテナンスも玄関でできるので一石二鳥です。ソファで珈琲を飲みながらお気に入りのキャンプ道具や靴に囲まれて本を読む、リビングでは味わえない至福の時間です。
いかがでしたか。
玄関には靴を脱ぎ履きするという大きな役割がありますが、それ以外にもご家族の想いを具現化したり日々の生活を豊かにしてくれる役割を持たせることもできます。愉しそうでワクワクする玄関のあるお家はきっと、玄関以外の空間もそこで営む生活も愉しいはずです。
これからお家づくりをはじめる方は、是非玄関の事も考えてみてください。今回紹介したような大層な仕掛けでなくても照明ひとつ、棚一枚、クロス一面を考えてみるだけでもきっとワクワクする玄関になるはずです。
ではまた。
KADeL 西尾真一
関西 大阪 注文住宅 建築設計 建築家