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【住宅の豆知識】素晴らしき哉、木造建築 其の壱
公開日
2024-6-25 09:00

日本には素晴らしい木造建築がたくさんあります。

そして世界にも素晴らしい木造建築がたくさんあります。そんな木の可能性を無限に広げてくれる木造建築をご紹介したいと思います。

 

今回は日本を代表する木造建築「法隆寺」です。

 

 

世界文化遺産「法隆寺」は推古天皇と聖徳太子によって推古15年(607年)に建立された、世界最古の木造建築です。670年に火災で焼失しましたが7世紀後半に再建されており、法隆寺の建物のうち五重塔・金堂・中門・回廊の四つは現存する世界最古の木造建築物といわれています。世界を見渡せば、ピラミッド(4000年以上前)やコロッセオ(2000年前)など法隆寺より古い建造物はたくさんあります。しかしながら木造建築となると法隆寺が最古です。

 

法隆寺の凄さは建てられてから1300年以上が経過しているにもかかわらず、その美しい姿を保ちながら未だ建ち続けている事に尽きると思います。

 

1300年以上に渡る長い歴史をくぐり抜けてきたこの建物には、長寿の秘訣が隠されています。木造建築と聞くと長持ちしない印象を持つ方も多いでしょう。1300年以上の長い年月の間には、大小何度も地震に遭遇しただけでなく台風もあったことでしょう。しかも通常建物は一気に倒れることは少なく、小さいダメージが積み重なることで小さいズレがだんだん大きくなって最終的に倒壊するため、年数を重ねるほど不利になっていく建造物の法則の中では、1300年間以上建ち続けるというのはおよそ考えられない年月です。日本は世界有数の地震大国のため木材は他の素材に比べ衝撃に弱いのでは?と考える人もいます。さらに日本は湿気の多い気候風土のため、菌の繁殖による木材腐食や建物劣化のリスクもあります。それでも法隆寺は1300年以上その姿を保ち続けています。何故こんなに法隆寺は長寿なのでしょうか。構造、工法、材料、湿気や雨水から木を守る工夫、そして丁寧なメンテナンスなど1300年以上経過してもなお現存しているには、様々な理由が考えられます。

 

 

~材料~

法隆寺で使われている木材「桧(ひのき)」は、木材の中でも最高レベルの耐久性と保存性を誇り非常に強度が高いといわれています。一般的に木材は伐採後の100~200年で少しずつ強度を増して、1000年が経過するまで強度はそれほど変わらないともいわれています。

 

 

 

~構造・工法~

法隆寺が1300年超の間で遭遇したM7クラスの地震は170回以上といわれていますが、倒壊した事例はありません。法隆寺の五重塔の強さの秘密は、塔の中心を貫く木の柱「心柱」にあります。地震発生時に塔がくねくねと横揺れしても、積み上げられた各階層が外れてしまわないようにする「かんぬき」の役割を心柱が果たしていると考えられており、法隆寺の五重塔に使われた「心柱」による工法は日本各地にある寺院の塔にも使われています。どの塔も火災で消失することはあっても地震が原因で倒壊することはありませんでした。

 

5層の各階はただ積み上げられているだけで固定されていませんし、心柱も吊り下げられているだけでどこにも固定されていません。この一見弱そうな「固定しない」「緊結しない」という構造・工法こそが重要であるという事実を、どうして1400年前の人たちが理解していたのかとても不思議なことです。

 

この構造技術は現代の専門用語で質量付加機構といい、この仕組みを使った地震対策は「心柱制振」と呼ばれ、東京スカイツリーでも採用されています。

 

 

 

~湿気・水対策~

湿気や水は木の天敵です。適切な処置をしないと木が腐ってしまいます。昔はサイディングの外壁などあるはずもなく、むき出しの木柱や木板壁を雨風から守る工夫が必要不可欠で、そのために深く軒を出す意匠やそれを実現する構造理念が必要でした。

 

軒が深いというのは屋根の庇が長く出ているということです。現在の木造住宅ではありえない1.8メートル以上も軒が出ています。このような深い軒は、構造上そんなに簡単なことではありません。軒を出せば出すほどかかる重量が増え時間がたつと下がってきてしまうので、肘木などの組み物や桔木などのテコの原理で重力を克服し、地震にも雨風にも負けない美しい意匠・構造を確立しました。

 

 

 

~適材適所~

また回廊の柱を見ると顕著なように、柱のフシをわざわざ南に向けて見えるようにしてあります。

今の木造建築では、フシは見た目が悪いとされ見えない方へ向けるのが一般的ですが、本来フシがあるのは伐採前に南に向いて日に当たっていたからで、伐採加工後も木材が育った方位や環境を変えずに使用する事で、建物が長持ちするように考えられていたのです。木材の使い分けや木の性質にあわせて木造建築を作りあげる匠の知恵であり、「適材適所」の語源となっている考え方です。

 

法隆寺の中門や廻廊の柱は、エンタシスと呼ばれる円柱胴部のゆるやかなふくらみが見られます。輪郭が直線の柱は中細で不安定に見えるので、これを防ぐ目的があるとされています。

 

 

 

~技術の伝承~

他にも、法隆寺に使用されている和釘は1300年経っても表面にしか錆が発生せず、表面層以外では鉄の強度が劣化していないため現在でもしっかりと機能している事や、柱が腐らないのは雨などの水がかかっても下に流れていき水はけと風通しのよい構造になっている事など、多くの建築的な知恵や工夫があります。さらには昭和大修理や様々な修復跡などからも垣間見ることができる、次世代に貴重な技術を伝える職人たちの技術の伝承。それらにより1300年以上経過しているにもかかわらず、今でもその美しい姿を保ちながら建ち続けているのです。

 

木造建築って奥が深いですね。

 

 

KADeL 西尾真一

関西 大阪 注文住宅 建築設計