地震対策、耐震、構造のお話 其の二
~建物を軽量化して地震の揺れを減らす「減震対策」~
【屋根で行う耐震対策】
大きな地震でお家が揺れると、柱や梁を繋いでいる接合部分にダメージが残ります。
ダメージを残したまま2度目の大きな地震が来たときにはその部分から壊れて、結果家が崩れてしまいます。
平成28年(2016年)熊本地震でたくさんの家が崩れた理由のひとつです。
古い木造住宅を耐震改修する場合、瓦を撤去して軽い屋根に変えることで
耐震強度が増すといわれているくらい、屋根を軽くすることは地震に強い家を作る上で大事なことです。
住まいの屋根を「軽量化」することによって地震による建物の揺れを小さくする、
屋根で行う耐震対策。なぜ軽い屋根が地震に有効なのか。
軽い屋根が生みだす、地震に負けない安全・安心な住まいづくりのための「減震効果」をご紹介します。
【地震の時に建物にかかる力】
地震の時、建物の揺れは地面の揺れより2.5~3倍近く大きくなります。
地面の揺れの大きさを「地動加速度」といい、地面の揺れを受けて建物が揺れる大きさを「応答加速度」と言います。
【建物の重量を軽くする】
地震による建物への負荷は建物の重さに比例して増大します。
地震時に建物にかかる力の大きさは「建物重量×地震加速度」で求められます。
同じ建物、同じ地震の大きさであっても屋根の重さが違うと、その重さに比例した余分な力が建物に加わってしまいます。
【建物の重心を低くする】
住宅は背の高いビルなどに比べて揺れ幅が小さく、揺れる速度も速いのが特徴です。
しかし屋根が重く、重心が高ければ揺れ幅は大きくなりゆっくりと揺れるようになります。
建物が揺れると、建物には振り子のように元に戻ろうとする力が働きます。
そこに建物の重さも加わり、それが繰り返されることで大きな負担が建物へかかります。
瓦のように重い素材で屋根を葺くと、建物の重心が高くなるので揺れはいっそう大きくなります。
言い換えると、屋根を軽くすることによって地震の時の揺れ幅を小さくすることができるのです。
【屋根を軽くすることで得られる減震効果】
・建物の軽量化
・建物の重心の低下
という二つの減震効果を生み出すことが可能になります。
屋根を軽くすることで建物の躯体に掛かる重量を軽減し、重心を低くして振り子現象による倒壊リスクを軽減する、
これが「減震対策」のメカニズムです。
【KADeLでは】
ガルバリウム鋼板製の屋根を使用しています。
瓦の重量は約60kg/㎡、軽量スレート瓦で約20kg/㎡、ガルバリウム鋼板であれば約6kg/㎡。
ガルバリウム鋼板の屋根は、瓦葺き屋根の約1/10、軽量スレート瓦葺き屋根の約1/3の軽さです。
例えば屋根の広さが50㎡(15坪)の場合、
・瓦屋根:3.0トン(3,000kg)
・スレート屋根:1.0トン(1,000 kg)
・ガルバリウム鋼板屋根:0.3トン(300kg)
という大きな重量差が生まれ、大きな減震効果を得ることが可能になります。
地震の時に建物にかかる揺れを大幅に軽減し、万が一の地震から大切な家や家族を守る「屋根で行う耐震対策」。
私たちは今日も検討を重ねながら、地震に強いお家づくりに取り組んでいます。
【補足】
今回は軽い屋根で地震に強いお家をつくるという視点で解説しましたが、
瓦屋根イコール地震に弱い、軽い屋根イコール地震に強いとは限らない、
という別の視点での検証も書き加えておきます。
令和6年能登半島地震でも瓦屋根の建物が多く倒壊しましたが、
この地震では耐震補強がされていない古い瓦屋根の木造住宅が、とりわけ大きな被害を受けています。
古い木造建築物の多くは瓦屋根なので瓦屋根の建物が倒壊したという印象が強いですが、
能登半島地震の約半年前に発生した令和5年5月の奥能登地震(震度6強)における、
国土技術政策総合研究所の調査報告書では以下のまとめがなされています。
①宝立町鵜飼で倒壊した倒壊した住宅の1階梁・桁には鋼材による部材が使用されていた。
このことから店舗併用住宅などで1階の壁が少なかったものと推測される。
周辺の建築物の被害も1階の前面間口が開口となっている店舗併用住宅の残留変形が大きかった。
近傍の屋根瓦の被害は極少数に限られていると見受けられた。
②正院町正院の被害は倒壊を含む甚大なものが多かった。
住宅と見られるものは少なくとも3棟倒壊していた。
伝統的な構法による古い住宅で壁量不足が倒壊の主な原因ではないかと想像される。
③正院町正院の他の倒壊建築物は使用されていなかったもの(空き家)が多いと想像される。
うち、木造廃工場建築物には筋かいのような部材も倒壊現場で確認されたが、端部は釘打ちのみであった。
その他、部分崩壊した住宅1棟、倉庫などの用途と想像される建築物3棟などの倒壊が確認された。
④正院町正院の被害は倒壊・崩壊以外にも大屋根が崩壊した倉庫建築物、大きな残留変形を有する住宅もあった。
瓦屋根の被害も多数見受けられた。現代的な工法の被害も一部確認され、寺社の鐘撞き堂の倒壊なども確認された。
このように、報告書では木造建築物の倒壊の原因は壁の不足、金物の不足、空き家等に原因があると指摘しています。
国土交通省国土技術政策総合研究所が行った耐震シミュレーション「wallstat」を使った解析では、
旧耐震基準建物の屋根を「重たい瓦」から「軽い金属屋根」に葺き替えても倒壊するという結果が出ています。
これは「瓦屋根だからお家が倒壊した」のではなく「旧耐震基準の脆弱だった建物だから倒壊した」という事を示しています。
旧耐震基準では震度5程度で家屋が倒壊しないという基準によって壁量が決められているため、
屋根材が瓦でもガルバリウム鋼板屋根でも旧耐震基準ギリギリの強度の建物であれば、震度7で倒壊する可能性は高くなるのです。
2000年基準(新耐震基準)は、1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災で多くの木造住宅が倒壊したことから、
その耐震基準をより厳しくしたものです。
地盤の耐力に応じた基礎構造、筋交い金物、柱頭柱脚接合金物、耐力壁の配置バランス、
偏心率の規定を加えて旧耐震基準をより強化しバランスの良い家づくりを義務化おり、
新耐震基準の重要性については2016年熊本地震で明らかになりました。
地震に強いお家づくりは、大きな地震のたびに私たちが受けた被害や経験、
そして調査や検証に基づき、日々工夫されながら進化しているのです。
KADeL 西尾真一
関西 大阪 注文住宅 建築設計